「秋クポ!食欲の秋クポよー!」
白い生き物が、またなにか騒いでいる。
「ご主人様もひきこもって盆栽ばっかりしてたらもったいないクポ!
若者らしく外に出て食事でもしてくるクポー」
盆栽じゃないし、食事が若者らしいってのもわけわからない。
・・・けど、そうだな、たしかに最近出かけてない。
モーグリが言うには、大工房の職人食堂は、安い割にはいつも温かい食事がでてくる、ヴァナでも有数の豊かなメニューの食堂だとか。うん、ちょっとのぞいてみようかな。
壁に貼られたメニューを眺めてみる。
火曜日:ベークドポポト
土曜日:フライドポポト
水曜日:マッシュポポト
風曜日:ポポトサラダ
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・・・・・・。
まぁ、芋が主食のこの国の「豊かなメニュー」なんてこんなものなんだろう。これにメインとサラダ、スープがつくんだから確かに文句は言えない。
だって工房の職人なんてほとんどは、普通に鉱山区に帰ったら、うすいスープとアイアンパンくらいしか食べられないんだから。
そういえばだいぶ前に、ここの職人にソーセージ焼くのを頼まれてたっけ。
焼いたはいいけど、渡しに来るのをずっと忘れてた。
いつだっけ、これ焼いたの。たしか2、3ヶ月くらい前・・・
・・・まぁ、いいか。
ソーセージは保存食だし。
「おお! ガルカンソーセージだな!
ありがとう、礼にこれをやるから、食わせてくれ!」
そういうと彼はちょっとびっくりするくらいのお金をくれた。
もちろん、私にとってだけ「びっくりするくらい」な、小さな額だけど。
でも、嬉しい。
雇い主から送られてきたものを売ったり渡したりしたんじゃなくて
自分で羊を倒して 自分で山に登って焼いた はじめての仕事の報酬だから。
でもさ
そのステーキのが美味しそうじゃない?
* * * * *
「秋クポ!芸術の秋クポよー!」
モーグリがまたうるさい。
「ご主人様も棒を持ってミミズを殴ってるばっかりじゃ能がないクポ!
たまには楽器屋なんかにも行ってみるクポー」
なんか勘にさわることを言われた気がする。
けどいちいち怒るのももうめんどくさいので、とりあえず出かけよう。
楽器屋か・・・なんでも、ヴァナでもこの国にしかないらしい。
でも今まで一度も行ったことはなかった。
商業区の雰囲気はちょっと苦手だ。
それに楽器なんかにお金をかける余裕、私はずっとなかった。
「はじめまして〜^^」
楽器屋に入ると、
小さな花みたいな笑顔のタルタルがぺこりとおじぎをしてくれた。
別に、もちろん、楽器を買おうと思ったワケじゃない。
ただ、またなにか仕事でもないかなと思って覗いてみただけだった。
私がおじぎをすると、その小さなタルタルはにっこり笑って買ったばかりのフルートを吹いてくれた。聴いたことなかった、心地よい音色。拍手をすると今度は竪琴をとりだした。
ひさしぶりに里帰りをして、今日はじめて楽器の練習を始めたという彼女。
すごく楽しそうに、歌ったり、楽器を奏でたり。
私の拍手にこたえて、何曲も演奏してくれた。
私一人のための小さなリサイタル。
芸術の秋、か。
こういう日も、たまには悪くない、かな。